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(C)Two-way/生活指導/小学校2年生/いじめ



3cmの隙間 
  


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本来楽しい営みとなるはずの給食。七歳の彼にとっては苦痛,孤独以外の何ものでもなかった…。
  しかしながら,いつの世でも子供集団がもつ「正義感」は健在だ!



 私のクラス(2年生)でいじめがあった。いじめにあったのは,クラスで一番小さい男の子。
 彼は,同じ班の仲間たちから「馬鹿」とか「チビ」とか言われていたらしい。グループを作るときも班の仲間たちと机をくっつけてもらえなかった。給食の時,私は,毎日各班を訪問して子供たちと一緒に食べる。私は、そのときにも机と机の間に気付かないでいた。『3pの隙間』であった。

 いじめは,組織的継続的に行われる。彼が机をつける。すると他の子たちは離す。この繰り返し。20pならすぐに分かる。3pは他にはなかなか分からないものだ。しかし,当事者たちにとっては明らかに「離されている」「離している」意識となるのだ。
 
いじめた子たちだって,心の葛藤があったであろう。「やめようよ」などとはなかなか言い出せないものだ。言ってしまったら,今度は,自分が『3pの隙間』の彼方に追いやられてしまうから。私は自分自身を恥じた。これらの事実を私は,よりによって一ヶ月間も見過ごしていたのだから。本来楽しい営みとなるはずの給食。7歳の彼にとっては苦痛,孤独以外の何ものでもなかった…。しかも,私がいじめの事実を知ったのは彼の訴えからであった。
「一ヶ月もか…。ごめんね,先生,何も気がつかなくて。本当に辛かったね。よくここまで我慢したね。後は先生に任せなさい。」
としか言えなかった。

私は,子供たち全員を教室の黒板の前に集め,その場に座らせた。
「最近,一つだけどうしても見過ごしてはならないことがありました。とっても重大なことです。」
 子供たちはシーンと聞いている。
「実はね,『馬鹿』とか『チビ』とか悪口を言っている子がいるんだよ。しかも班の中で毎日毎日だよ。」
 すぐに子供たちから「えー」と声があがった。私は,矢継ぎ早に数名の子に聞いていく。
「どう思う?」ーひどいと思う。「君はどう思う?」ー許せない。「君は?」ーこれはいじめです。
 
 いじめに加担していた子たちの目が不安げだ。
「こんな事は許せないと思う人は手を挙げなさい」
 全員の手が挙がる。やっていた子たちも手を挙げている。しかし,その手の表情はどこか自信なげだ。さらに畳みかける。
「これは明らかにいじめだと思う人?」
 全員の手が林立する。 しかし,ここで手を緩めてはいけない。
「もっと言うとね。実はそれだけじゃないんだ。」
 子供たちの目は,私の次の言葉を待っている。
「給食の時,一人だけ机を離すんだよ。しかも高山先生に分からないように三pだけ離すんだよ。」
「えーー!」と子供たちの声が一段と大きくなる。
「これってどう思う?」ーそれは卑怯者がすることです。「君は?」ー机をつけてもらえない子がかわいそうだ。「こんな事許せるか?」ー許せない!
「本当にそうだよな。許せないと思う人は手を挙げなさい」
 全員の手が再び天井に突き刺さった。

 いじめていた子たちは完全に孤立状態。いつの世でも子供集団がもつ「正義感」は健在だ。私はそれを味方に付けた。
 そして最後に一言。
「今度同じようなことがあったら,クラスのみんなと先生を敵に回すことになるんだ。心しておきなさい。」 
 以後,この手のいじめはピタッと無くなる。翌日の日記にはー。
『ぼくは,いじめはきらいです。でも,ときどきやってしまいます。これからは,絶対やめます。
 そんなものは,用水に捨てます。かわりに,人を助けるよい心を今度は,用水から拾います。』